民放連が10日毎に出している『民間放送』2014.2.13号
なぜ今のテレビは面白くないのか?
そのヒントになる樋口尚文氏(映画批評家・監督)の論評がおもしろいので再掲致します。
――児童養護施設を舞台にした子どもたちが主役の表現が適切かどうか、
ネットを中心にかまびすしい議論や饒舌が渦巻いて、
表現をめぐる言論のイントレランス((intolerance=不寛容)を強く感ずるほかない。
このたびのような表現をめぐる議論が起こった時にしばしば引き合いに出すのだが、
1960年代後半、私がまだ子どもの時分には日曜夜7時の団欒の時間に、
精神異常者の乱入で一家を惨殺された主婦が、犯人を極刑にできない刑法に怨念を持ち、
しからばと一時的に人を狂わせる機器を作って心神耗弱者による犯罪を多発させ社会に復讐する……という
重量級のテーマと社会批判精神をたたえた作品が「子ども向け特撮番組」として(!)
普通にオンエアされていた(しかも提供は大手製薬会社とこれまたふるっていた)。
私はこのドラマにそれこそトラウマになりそうな恐怖と衝撃を受けたが、
そこにこめられた大人の作り手たちの真摯なる思いはきちんと伝わるもので、
このドラマを見たことは以後何十年も心に残る「知的財産」となったのである。
そしてこんな思いきった作品がオンエアされても
そんなに血相変えた騒ぎにならないゆとりやマチ(※のぶ注:アローアンスallowance許容量や、ハンドルの遊び)が、後々まで印象深い傑作、問題作、異色作を生みだすことになるのだと思うし、
またこうした子どもを子ども扱いしない作品が逆にぼくらの「トラウマ耐性」を培ってくれもしたのだ。
そしてまさにその「子ども番組」の志高き作者たちが決して「視聴者は子どもだから」と
手をゆるめずに作品づくりをしていたことが優れた作品が輩出する理由でもあったわけだが、
その連想で思い出すのは1972年から83年にかけて放映されていたNHKの「少年ドラマシリーズ」だ。
シリーズ第1作は筒井康隆原作の「時をかける少女」を翻案した「タイム・トラベラー」で、
後にいわゆるジュブナイルjuvenileと呼ばれるようになる少年少女向け小説の新作から古典までを映像化した。
味わいある作品は枚挙にいとまがないが、極私的なチョイスで言えばくだんの72年の「タイム・トラベラー」、
73年の新田次郎原作「つぶやき岩の秘密」、74年の光瀬龍原作「夕ばえ作戦」、同じく高谷玲子原作「マリコ」、
久生十蘭原作「霧の湖」、75年の眉村卓原作「なぞの転校生」、
79年の筒井康隆原作「七瀬ふたたび」などは特にぐっと惹きつけられた。
「つぶやき岩の秘密」のやや陰々滅々たる物語と石川セリの「遠い海の記憶」というテーマソングは
今もって甘く苦い疼痛とともに思い出されるし、
「七瀬ふたたび」の多岐川裕美のフレッシュだが艶っぽさのあるテレパスのイメージも忘れ難い。
そして今、テレビ東京「ドラマ24」枠でこの「少年ドラマシリーズ」に育てられた世代の岩井俊二が
プロデュースと脚本を、長滓雅彦が演出を手がけて「なぞの転校生」がリメイクされている。
大枠は変わらないが、ショパンの「雨だれ」が全篇に流れるメランコリックな世界観のなか、
3・11以後の世界へのおののきと意志がはかなげに語られるところは岩井ワールドの面目躍如で、
確かに「現在」の「なぞの転校生」に生まれ変わっている。
言わばこれはかつて「少年ドラマシリーズ」で子ども扱いされずにいいものを見せられた子どもたちによる
最大級の返歌であり、且つその作り手の志の申し送りともいえる試みだ。
そしてこの「ドラマ24」枠というのは2005年の「嬢王」を皮切りに
09年の「湯けむりスナイパー」、10年の「マジすか学園」、「モテキ」11年の「勇者ヨシヒコと魔王の城」、
13年の「まほろ駅前番外地」 「みんな!エスパーだよ!」 「殺しの女王蜂」といった地上波のゴールデンタイムではお目にかかれないユニークで時として「規格外」の娯楽作品が目白押しの、ジャンル映画的ないきのよさ溢れる枠である。
基本の暖簾の色はナンセンスとエロスとメロドラマで、
視聴者を面白がらせてなんぼというようなやる気と活気を常に感じさせてくれるが、
そんなラインナップにジュブナイルというジャンルの代表的一篇「なぞの転校生」が加わることで、
いっそうこの枠の文化的肺活量はでかくなったことだろう。
文化的肺活量というのは、言葉をかえればアナーキーで自由な包容力があるということだが、
せめてこういう深夜の秘かな枠はテレビ環境をめぐるイントレランスを免れたやんちゃな表現特区であってほしいと祈るばかりだ。――
大人のみなさま いかがでしょうか?
あのドラマをよしとはしない私メですが、
視聴者を面白がらせてなんぼというような
実験的なテレビ番組に寛容であれば
ソチ五輪というナマ中継だけでなく「ドラマ」もきっと
かつての輝きを取り戻すと思うのですが・・・。



